コーエン監督『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』

コーエン兄弟の新作、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』を観てきました!
何しろ去年、カンヌ映画祭でグランプリを受賞したというニュースから、
かれこれ1年ですから、待ちに待ったという感じです。

コーエン兄弟というと、マニアックで一般ウケしないなんて言われていますが、
そんな彼らのことを私が知ったのは、大学時代のこと。
映画専攻ではなかったものの、映画ゼミに潜り込んで受講させてもらっていたとき、
ふと話題に出たコーエン監督が褒めちぎられていました。
その後、話についていけない悔しさから、コーエン映画を借りられるだけ借りて、
ひたすら観たところ、見事にツボにハマりました。

主人公が犯罪だったり厄介ごとに巻き込まれていくストーリーが多いのですが、
抜群のブラックユーモアで、Fワード多発のダメ人間を描きます。
断片をみると子どものいたずらのような遊び心あふれるものなのに、
それらをまた「ドヤっ」てほど完璧な構成でまとめ上げるんですね。

近年だと、『バーン・アフター・リーディング』や『トゥルー・グリッド』など
興行的にもヒットした作品が多かったですが、今回の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』は
どちらかというと玄人好みテイストな印象でした。

~以下、ちょいネタばれ注意です~

舞台は1960年代のニューヨークにおいて、フォークブームを起こした地区グリニッジ・ヴィレッジ。
売れないフォークミュージシャンのルーウィン・デイヴィスは、
家も無く、面倒をみてくれるレーベルの主人とも衝突し、
あげくに居候していたシンガーの女を妊娠させてしまいます。
そこから逃げ出すように、ギターと預けられた猫を抱えて、旅に出ます。

旅の中で、一緒に組んでいた友人の自殺のことや、
介護施設にいる父親のことなど、目をそむけてきたものを見つめ直します。
巡り巡って行き着く先は、ライブハウス、居候している女のアパート、
レーベルの主人、亡くなった友人と組んでいた頃から世話になっている家族と
「あれ?この場面、またふりだしに戻ったじゃん」というところで物語は幕を閉じます。
散々ひどいことを言って、出ていったにも関わらず、
何事もなかったかのように元いた場所に受け入れられるのは
ダメなんだけどどこか憎めないルーウィンのキャラクター故です。

ルーウィンのモデルは、ボブ・ディランも憧れた実在のフォーク・シンガーであり、
彼の回顧録をコーエン兄弟が自由に脚色したのが本作とのこと。
小さい頃から音楽好きだったコーエン兄弟だけあり、
主人公のモデルが作った実在の曲を、劇中で俳優が実際に演奏することで再現したそうです。
フォーク・シーンが起こる裏では、一握りのスターが誕生する一方で、
数多の名もないミュージシャンの生があるはずです。
そんな名もなきフォークシンガーの一人に焦点を当てた所に
コーエン兄弟の音楽カルチャーへの敬意や愛情が感じられます。
(率直ではなくひねくれてるから分かりにくいんですけどね)
アンダーグラウンドな雰囲気もコーエン監督の持ち味と
マッチしていて、どこか心地よくずっと浸っていたいような映画でした。